月明かりの下 -?-
初めての口付けはとても優しくて柔らかかった。
唇を啄ばむように、エッジはリディアに何度も口付けた。
人の唇がこんなに温かくて柔らかいことを、リディアは初めて知った。
うっとりと目を閉じて初めての感触を楽しんだ。
ほどなく、ヌルリとしたものが口の中に入ってきた。
「ん、ちょっ……」
こんなキスは知らない。
驚いたリディアはすぐにエッジから逃げようとしたが、いつの間にか頭をしっかりと押さえられていて動くことができない。肩の辺りを手で突っ張ろうとしても、男と女では体力が違う。強靭な彼の体はびくともしなかった。
「大丈夫、すぐによくなるから」
囁く声とともに再び唇が降りてきた。
唇を舐められるのはくすぐったかったけれど、悪いものじゃないと思った。
するりと口内に侵入してきた舌はリディアの舌と絡まりあい、次第にクチュクチュと音を立てるようになってきた。
「んん……」
深く合わさる唇と、優しく背中に添えられた手から伝わるぬくもりが、これからリディアを待ち受ける行為に対する不安をやわらげてくれた。
最後にチュ、と音を立てて頬に口付けを受けると、エッジはリディアから離れた。
「そろそろ向こうに行くか?」
「……」
指し示されたのは寝台だ。それを見た途端、リディアの緊張は更に高まった。
愛し合う人間の男女がどのようにして子孫を残すのか、そのために寝台の上で何をするのか、リディアはもう知っている。
本当は怖い。怖くてたまらない。
でもエッジとならきっと大丈夫だ。そう信じて、リディアはゆっくりと頷いた。
寝間着を着たまま、まっさらなシーツの上に横たえられた。
照明のロウソクもすべて吹き消され、窓から差し込む月明かりだけが二人を照らす。
あぁ、ひとつだけになったんだなと、煌々と輝く満月を見上げながらぼんやりとリディアは思った。
けれどすぐに、視界は覆いかぶさってきたエッジの顔でいっぱいになる。
「不安か?」
そう訊ねられるほど、今の自分は怯えた表情をしているのだろうか。
「大丈夫、エッジと一緒だから怖くないよ」
自分の中にある不安も全部拭い去るように、リディアは精一杯微笑んだ。
怖いなどと言ってはいられない。それに、もっと深くエッジの愛情をこの体に受けたい。
「そうか」
つられるようにエッジも微笑んだ。
この人ならきっと、あたしをもっと幸せにしてくれる。そう信じられるような、心強く頼もしい笑顔だった。
リディアの笑顔は今までに見たことのない色気を含んでいて、内心ゾクリとした。
笑っていてもおそらく初めてだろうから、あまり無理なことはできない。もしも痛がったり拒絶したりされたら、すぐに中断するつもりでいる。
「ボタン、外すぞ」
小さく頷くのを見てから、リディアの寝間着のボタンを一つ一つ、丁寧に外していった。
間もなく服の隙間から覗き始めた滑らかな胸の丸みに、まるでそれを初めて見る少年のように胸が高鳴った。
「やだ、そんなにじっと見ないでよ」
薄く頬を染めて、リディアが弱々しく抗議の声を上げた。興奮しているのか、涙に潤んだ瞳がこちらを見上げている。
「わりぃ、なんかその、可愛いなと思ってさ」
「ば、馬鹿っ!」
思ったことをそのまま告げると、リディアの頬は更に赤みを増した。少し怒ったように肩をすくめる仕草も、恥ずかしそうに睨んでくる視線も、全部可愛らしい。
今日はそんなに長くもちそうにないな。心の中でだけ呟いて、エッジは作業を再開した。
ゆっくりと時間をかけて全てのボタンを外し、頼りなく彼女の体を覆い隠していた布をそっと取り去った。
残すところ下着一枚だけになったリディアは、恥ずかしそうに視線を横に泳がせ、胸元を両手で覆い隠した。落ち着かない様子でモジモジと膝をすり合わせている。
その様子があまりにも初々しくて可愛らしくて、思わず笑みがこぼれた。
「わ、笑わないでよっ!」
「笑ってねーって」
「嘘! 顔がニヤニヤしてるもん」
今にも泣きそうな顔でまくし立てるリディアに、エッジは一つキスを落とした。
本当なら今すぐにでもがっついて、滅茶苦茶にしてやりたい。けれど今日だけは、無邪気なお姫様のために、逸る気持ちを必死に抑えようとしている。そうでなければ、ただ怖がらせて泣かせてしまうだけだろうから。
これから少しずつ、自分好みに開発してゆけばよい。
「ぅん……っ」
唇を合わせながら、リディアのしなやかな体にゆっくりと触れてゆく。
首、肩と順に降りてきた後は、胸の前で交差している手をゆっくりと脇に避ける。そっと張りのある乳房を手で包み込むと、リディアは驚いたように体を震わせる。安心させるように、もう一方の手で彼女の手を握り締めた。
リディアの乳房は、ちょうど彼の手にすっぽりと収まるほどの大きさだった。ツンと上を向いていて形も良く、見ているだけでも十分に楽しめるものだ。
エッジはしばらくの間その感触を楽しむと、徐々に存在を主張し始めた先端を指先で軽く突いた。
途端にピクンと体を震わせる。意図を持った愛撫に不慣れな体は、十分すぎるほど敏感に反応を返してくる。よほど興奮しているのだろう、うっすらと汗ばむ肌は、エッジの手にしっとりと吸い付くように滑らかだ。
ぷっくりと固くなってきたそれの感触を楽しみながら、もう一方の乳房に舌を這わす。
「ん、やっ……」
「や、じゃねえだろ? すげえ気持ちよさそうだぜ」
弱々しく首を振るリディアに言葉をかけると、エッジは頂点を唇で啄ばんだ。
じっとりと舌の上で転がすように舐めてやると、リディアは途切れ途切れに喘ぎ声を上げながら身をよじらせた。
胸元から脇腹へ手を移動させる。月明かりに照らされた体の輪郭をすべて確かめるように随所をなでる。
どのように触っても、必ずリディアの体は反応する。エッジの愛撫に十分感じている証拠だ。寄せられた眉根、閉じた瞼、半開きで浅く呼吸を繰り返す可愛らしい唇。その表情を、喘ぐ様子を見ているだけで、エッジ自身の興奮は増幅してゆく。
「足を少し開けるか?」
「え、うう……」
生まれて初めて体験する感覚に完全に寄っているのだろう、リディアの口からはもう言葉らしい言葉が出てこない。
けれど、エッジの指示に従って、ずっと閉じ合わされていた膝がゆるゆると開かれる。
「そうそう、いい子だ」
開かれた隙間にすかさず自分の膝を滑り込ませながら、エッジは一度伸び上がってリディアに口付けた。
今夜だけで何度、この唇を味わっただろう。
太ももの内側を何度か撫でた後、指先で真ん中の筋をなぞってみた。
「ひゃんっ!」
「大丈夫、ただ触ってるだけだ。痛くはしない」
驚き、もがこうとするリディアをできるだけ優しく制する。不安げに見上げてくる瞳は涙で潤んでいる。普段はあどけない仕草ばかり見せる彼女の扇情的な表情は、エッジの気持ちをはやらせる。
リディアの中心は十分すぎるほどに濡れていた。
内部からあふれ出てくる蜜は、周辺をぐっしょりと濡らして滴り落ちそうなほどだ。
「濡れてるな。そんなに気持ちよかった?」
「ふぅ……ん」
言葉になっていない返事を肯定と受け取り、エッジはそのままヌルヌルと周辺に蜜を塗りこむように指を動かした。
リディアの秘所は温かく滑らかで、いつまでも触っていたいと思える心地よさだった。
少し動かすたびに声をあげ、ピクンと全身を奮わせる彼女が可愛くて仕方ない。眉根を寄せ、軽く目を閉じて快感に耐える表情も扇情的だ。
そろそろ頃合かと、エッジはそっとリディアの中に指を一本うずめた。
異物感に驚いたが、滑らかに入ってきたので特に痛みは感じなかった。
もう今までに受けた愛撫だけで十分すぎるほどの快感をリディアは得ていた。これ以上刺激をされたら自分がおかしくなってしまいそうで、少し怖かった。
最初に出た自分の声の高さと甘さにひどく驚いた。こんな声が自分から出るなんて信じられなかった。恥ずかしかったから声を抑えようと思ったけれど、エッジは我慢しなくていいと言うし、体のそこかしこに愛撫され、我慢できる域をとっくに超えていた。
体内に侵入してきた指は、リディアを傷つけないように優しく、けれどそれだけで独立した生き物のようにうごめいている。
「痛くないか?」
「ん……」
きちんと返事をするつもりなのにうまく声が出なくて、リディアは懸命に頷いた。
まさかこんな場所を触られて気持ちいいと感じるとは。当惑したが、それを隠し通すだけの理性など、もう残ってはいない。
内側のある一点を指先が通過した時、体の中心から電流が流れたようになった。
「ふぁあああっ!」
意図しないままに体が大きく跳ね、悲鳴に近いほどの声が唇から漏れる。堪らず、リディアは胸の辺りにあるエッジの頭にしがみついた。
何かに掴まっていなければ自分がどこか遠くへ行ってしまいそうで、怖かった。
「うん? ここがイイの?」
「ん、やっあ、あん」
リディアの反応に気づいたエッジは、見つけた一点を集中的に攻めてくる。指の腹で撫で回され、突かれるうちに、だんだん頭の中が真っ白になってゆく。
片方の乳房は指先で転がされ、突つかれ、ときにキュッと摘まれる。
もう片側はエッジの口に含まれている。吸い付かれたり、軽く甘噛みされると、頭にジンと響く。
そして、体の中心では絶え間なく彼の指が動き回る。
いっぺんにそれだけの刺激を与えられたリディアの心臓はいつもの倍ぐらいの早さで動いているし、呼吸も浅く、速い。熱を持った全身はしっとり汗ばんでいて、気持ち悪い。なのに、エッジの手によって与えられる刺激だけが、今までにない快感を教えてくれる。
気持ちいい。
頭の中に浮かんでくる言葉は、ただそれだけだ。
侵入してくる指が二本になり、やがて三本になったことに、リディアが気づくだけの余裕はなかった。
「そろそろ、入れてもいいか」
体内に入っていた指がゆっくりと引き抜かれた。
「…………」
入れる、というのが、どこに何を入れることを意味するか。経験のないリディアにもわかる。
男性のものがどれほどの大きさなのかわからない。けれど、おそらく先ほどまでの指とは比べ物にならないはずだということは、容易に予測がつく。
やはり、その瞬間は痛いのだろうか。ほとんど働かない頭で考えられたのはそこまでだった。
よほど不安げな顔をしていたのだろう。エッジはリディアの顔を覗き込むと、フッと微笑んだ。
「そんなに心配しなくても大丈夫だって」
「……本当?」
「本当だよ、ほら」
同時に、体の真ん中に鈍痛が走った。
「!!」
思わずヒュッと息を飲み、体が強張る。
エッジの嘘つき! そう言いたいのに声は出なかった。痛いなんてもんじゃない。
世の中の女の人は皆この痛みを経験しているというのか。信じられない。これなら、魔物と戦って傷を負ったときのほうがずっとマシだ。
「つっ……。リディア、もう少し力、抜いて」
固く閉じていた目を開けてみると、目の前にあるエッジの顔が苦しげに歪んでいた。
「ん、抜きたいんだけど……」
これでも努力はしているのだ。けれど、痛みに負けてしまって、どうしてもうまく体の力を抜くことができない。
「できる範囲でいいから」
チュ、と軽く口付けられた。一度くっついて離れた彼は、苦しいはずなのに、薄く笑っていた。その笑顔を見ていると、逆立った神経が少しずつ落ち着いてくるような気がした。
リディアの力が抜けた隙に、エッジは一気に奥まで進めた。
「あっ」
ズシリときた思い衝撃に一瞬痛みを忘れた。
少し時間が経ってみるとこの痛みにも段々慣れてきたようで、最初ほどは辛くなくなってきた。
内部からの強い圧迫感で、自分の内部がエッジのもので満たされていることを知った。
今、あたしたちは一つになっているのだと思うと、言い表せない喜びが芽生えてきた。
「動いても大丈夫?」
「……たぶん」
そっと訊ねられた声はリディアを気遣うもので、その気持ちがまた嬉しかった。
力強い動きで、全身が揺さぶられる。体の中を一突きされるたびに、痛みと一緒に違う感覚も襲ってくる。けれど、これが何なのかを考えるだけの余裕はない。
「あ、あっ、あっ、あっ」
最初はごくゆるやかな動きだったのだが、次第にそれは速度を増してきた。
「くっ……」
エッジの声が漏れたのが聞こえた。彼も、自分と同じように気持ち良いと感じてくれているのだろうか。
「そろそろ、いくぞ」
「あ、んっ」
何を言われたのか半分も理解しないまま、エッジの言葉に夢中になってうなずいた。
次の瞬間、腹の中が温かな液体で満たされ、彼が果てたことがわかった。
それから間もなく、エッジとリディアは互いを抱きしめて眠りについた。
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2008/05/03